昔ログ

長いこと旅を続けている旅人は、
小さなオシロイバナの種を手に入れた。



それを手に道を歩いていくと花嫁の少女が唇に紅を引いていたので、
オシロイバナの核を砕いておしろいをつくってあげると、
その少女は喜んで水色の饅頭をくれた。



それを手にまた歩いていくと、
大きな屋敷の前で坊が泣いていたので、
その饅頭をあげるとお腹は空いていないと首を振るので
どうしようかと思っていると、
坊はぴたっと泣き止んで、ありがとうと黄色いリボンをくれた。


坊は門の中へ入っていった。



黄色いリボンを手に水色の饅頭を食べながら歩いていくと、
井戸があったので喉を潤そうと水を汲んだ。
すると桶の中では小人が水浴びをしていたので、
すまないと言って桶を再び下ろそうとすると、
いやいや、出られなくて困っていたのと小人は喜んだ。


裸の小人の姿が哀れだったので黄色いリボンで身体を覆ってやると、
小人は笑ってキスをくれた。



何も持たずに道を再び歩いていくと
青紫のもやに埋もれる花畑があったので、
その前にしゃがみ込み見ていると、
蝶が一匹やってきて唇に止まった。
また一匹また一匹と蝶が増えるにつれ息が苦しくなるので、
ふうと思いきり息を吐き出すと、
蝶は散り、口の中に冷たい固形物が残った。


手に乗せてみるとそれは赤いビー玉だった。


よだれで湿り、ぬけるように輝くきれいなビー玉だったので、
大切に懐にしまった。



それからは道を歩くのさえうまくいかなかった。


彼は3歩も歩かないうちにビー玉を取りだし中を覗きこんだ。
しばらくしてそれをそっと胸にしまってはまた歩きだし、
気もそぞろにまた取り出した。


それを1日に何十回と繰り返していると、
朝も昼も夕も夜も関係なく飛ぶように過ぎていった。



その日、いくらかも歩かないうちにまた赤い紅いビー玉を見たくなり、
懐に手を伸ばして取りだそうとすると、
袖が引っかかり、ビー玉が転がり、引力に引かれて、
道に高い音を立てて落ちた。


割れて、組織にヒビが入って、
粉々の欠片となった赤いビー玉は屈折面が増えて、
光がシラシラと輝いて、もっともっと綺麗だった。


破片の前にしゃがみこむと飽きもせず、日がな一日眺めていた。


太陽が角度を変えるたびに違う驚きを得た。
飯も取らず、睡眠もとらず、まばたきさえも止めて、
ただただ眺めていた。



ある日、鉱夫が通りすがった時、
それを見て「もったいないことをしたな。これは宝石だぞ」と言った。


ある日、リスが通りすがった時、
その欠片を一つ飲み込み、その場で死んだ。


ある日、宝石商が通りすがった時、
これはルビーといってとても価値のある…と言った瞬間には死んでいた。



さて、この旅人は幸せだと思いますか?

                                                                                            • -

わらしべ長者がやりたくて書いた詩、だったと思う。